『得体が知れないけれど魅力的な、美しい映画』
あや (moonbow cinema) のmemory like a moonbow
1984年生まれ/グラフィックデザイナー
2000年5月ごろ
渋谷・シネマライズにて
2000年に私は15歳で、映画館で見た映画といえば両親と見た魔女の宅急便や、男の子と見に行ったアルマゲドンくらいしか知らなかったころ、初めて「単館映画」を見たのが渋谷シネマライズでのヴァージン・スーサイズでした。
塾が神保町にあったせいで近くに大きな書店が多く、家のそばには売っていないようなかっこいい雑誌がたくさん売っていて、意味の分からない素敵な写真、聞いたことのない音楽の紹介が載っている雑誌を昼食代を費やして買っていました。
当時夢中になったのは雑誌の「H(rockin’on)」や「SWITCH」でした。
ソフィア・コッポラも、ミルクフェドも、フランシス・フォード・コッポラもよく知らないのに、数ページ特集が組まれていた映画の、幼いキルスティン・ダンスト、暗い芝生の写真、ガーリーなのに溌剌さの無い室内の写真が印象に残りました。
年上の友人にシネマライズに連れて行ってもらい、想像よりも面白かった、と言われたことを思い出します。
私はまだおしゃれが何かも分からないし、芸術も知らないし、おもしろい感想も何も言えなかった気がします。
だけど、あの暗さ、あの静けさ、暗澹としたキュートさ、窮屈さ、青春や思春期や鬱屈や解放や抑圧の描かれ方、はずっと印象に残っています。
今でもあの映画に対しての素敵な感想はうまく言えません。
おもしろければおもしろいほど、映画に対しての感想はうまく言えなくなっていくような気もします。
けれど、魅力的なものの素敵さを言葉だけでは表現できないことを知り、それでも何故か引っかかったものには何かがあるということを知り、得体が知れないものに飛び込むことを初めてしたのがヴァージン・スーサイズだったことは、とても幸福なことだったように思います。
毎年何本も見る劇場公開の映画や色んな場所に行く美術館で、それらがどんな映画かどんな展示か、あまり調べずに見に行くのが好きです。予告編も見ずに映画館に行くこともあります。2000年にはまだYouTubeもありませんでした。
得体の知れない素敵なもの、に出会うのが何よりも大好きで、そのきっかけは一本の映画だったと思います。